「それは偶然ではなく必然だった」

~東京マラソン2007モバイルAED隊に参加した救急救命士からの報告~

2007年2月、我々は第一回目にあたる東京マラソン2007のモバイルAED隊としておよそ30,000人を超えるランナーの救護にあたった。
「一人もマラソンレースの中の突然死を起こさせない」という強い気持ちをもって救護に当たっていた。その中で心肺停止事例に遭遇した。ゴール付近で救護待機していた私たちは、沿道で応援していた小学生が「人が倒れている」と通報してくれたのである。彼から人が倒れたという情報をもらえたため、ランナーが倒れてから2分以内で現場に到着することができた。

現場に到着し私は総頸動脈が触れないことを確認し、心肺蘇生法を開始した。2分間の胸骨圧迫の後、AEDを用いて除細動を実施した。すぐに胸骨圧迫を開始し、数分後人工呼吸時に抵抗が見られた。私はこれを自発呼吸が回復したと判断し呼吸、脈拍の観察を始めた。倒れてからおよそ6分程度のことである。弱々しいが規則正しい呼吸が感じられ、脈は橈骨動脈にてしっかりと触知することが出来た。救急車に収容される時点では、目を開き自ら会話をしてくれるまでの回復をみせた。

今回、我々は救命の連鎖の重要性を改めて痛感した。あの小学生の通報が我々の所に来るのが少しでも遅かったら、またバイスタンダーによる心肺蘇生法が少しでも遅く実施されていたら、今回のように現場で蘇生するという結果にはならなかったかもしれない。

この小学校5年生は地元の小学校に通い、5年生の夏休みの自由課題にて、「心肺蘇生法とAED」を学んだそうである。
私達はそれまで小学生に対する心肺蘇生教育は「早いのではないか?」と疑問を持っていたが、この小学生と逢ったことでこの時から「小学生でも心肺蘇生を知らなければならない」と確信した。

今回のこの機会は、決して偶然ではないと私は考える。今日まで我々は数多くのマラソンサポート経験やイベント救護経験、心肺蘇生法講習会の普及活動を数多く行ってきた。今回の救命事例はこれまでのマラソン救護のノウハウを活かした病院外における高度な救護体制の構築がもたらした一つの結果の表れであると考える。

今後もさらに安全なマラソンレースをサポートできるように、偶然ではなく必然的に人命救助を行える環境を構築していくこと、さらに事前に防ぐことのできる環境を整備していくことが我々のさらなる課題である。


※胸骨圧迫=心臓マッサージ
※除細動=電気ショック
※救命の連鎖=迅速な119番通報⇒迅速な心肺蘇生⇒迅速な除細動⇒迅速な高度医療処置の総称