電車内での救命例 国士舘大学 報告

2009年3月頃、終電で帰宅途中、1件の救命事例に遭遇したので報告する。

その日は、肌寒さが身にしみる冬の名残のまだ去りやらぬ夜であった。終電に乗り、自宅最寄りの駅まで、やや混雑している車内で立っている私の前で1人の60代の男性が、目が虚ろになっていた。しばらくの間、眠たさに耐え立っているのか、もしくは具合でも悪いのか気にして見ていると、突然その場で膝を崩しながらこちらへ倒れてきた。とっさに私が抱きかかえ頸動脈を触知するやいなや、その脈拍は触れなかった。救急救命士である私は、ただ「助けなければ」、「まずは胸骨圧迫」「119番通報・・・したいが電車の中だ」「AED!?電車が駅に着かなければ使用できない・・・」などと考えながら、とっさに自分の持っていた荷物も放り投げ車内で胸骨圧迫を続けていた。すると、周囲から「触るな!!」とだれかに声をかけられた。もしあの場で私が医療従事者でなければ、躊躇して心肺蘇生法を中断してしまう声であった。その後、その男性は次の駅で脈拍が再開し意識を取り戻したが、誰にもねぎらいの言葉ももらうことはなかった。もし私があの場で救命処置を中断していたら、違う結果になっていただろう。

現在、一刻も早く、AEDもしくは胸骨圧迫を実施して下さい、と心肺蘇生法の普及活動を行っている私には、とても残念な無責任にも思える声に聞こえた。

AEDの日本の普及率は年々伸び続けている現在、少しでも多くの方々の、心肺蘇生に対する認識を変えていかなければ、その効果も上がっていかないであろう。今後、さらなる心肺蘇生法の普及に力を入れようと再認識した事例であった。

国士舘大学教務助手 中尾亜美